平畑父遺言を書く2 民事信託を考えた

(お断り 本連載は事実を元に作ったフィクションです。)

まず初めに、平畑家の相続対策条件をおさらいしましょう。
平畑父の財産は古い住まい(52円)と預貯金少し(45円)とお遊び程度の株(約3円)。
将来、父母が死亡しても相続税はかかりません。

条件1;できるだけ多くの財産を平畑弟に遺す。
条件2;平畑母にはあまり多くの財産を相続させない。
条件3;住まいの共有は避ける。
条件4;成年後見制度の利用は極力避ける。
条件5;平畑弟に肉体的精神的負担をかけない。
条件6;平畑母は自分の預金を平畑弟と岡田妻に均等に遺したい。
条件7;平畑母は自分に平畑弟以外の成年後見人が付されるのは絶対に嫌。

岡田妻は民事信託(家族信託)を勧めることにした

 平畑家にはさほど財産がなく、それでも、病弱な平畑弟に財産をできるだけ多く残したいので、将来、報酬の発生する外部の成年後見人が平畑父母に付くことは避けたいと考えました。
 そこで、岡田妻は、今流行りの民事信託(家族信託)を平畑父に勧めることにしました。民事信託であれば、条件1, 2, 3, 4はクリアできます。

民事信託とは

 民事信託(家族信託)とは、家族のために自由設計で財産管理を委託する契約です。
 詳しくは、このホームページの別のブログで紹介しましたので、そちらを読んでください。

民事信託のメリット

  • 平畑父(委託者兼1次受益者)は、自分の死亡後の受益権、信託財産の行方を指定することができます。
  • 平畑父がしっかりしているうちに、財産を平畑弟に移転し、かつ、その財産を平畑父と平畑母のために使うことができます。平畑弟は、親のためであれば信託契約の定めの範囲内で自由に財産を処分することができます。
  • きちんと組めば、受益権が委託者に帰属している限り贈与税は掛かりません。(平畑家にはそもそも贈与税が掛かるほど財産がありませんが。)
  • 平畑父の行為能力がしっかりしているうちに信託契約を結べば、成年後見人は出てきません。成年後見人の報酬が不要になるため節約になります。
  • 平畑母の死後、平畑父が認知症になっても、平畑父の死後、平畑母が認知症になっても、二人同時に認知症になっても、ケアできます。
  • 平畑父母の死亡後も、信託口座は凍結されません。
  • 信託口座には倒産隔離機能があるため、平畑弟が破産等したとしても、債権者からの差押えから逃れることができます。

 なお、受益権が平畑父から平畑母へ移ったとき、及び、信託終了により平畑弟が財産を引き継いだ時は、相続税の計算の対象となります。(100円の財産に相続税がかかるはずもないのですが。)

民事信託は少し面倒くさい

 民事信託において、受託者には分別管理義務が課されます。
 分別管理義務とは、その名のとおり、受託した財産を他の財産と分けて管理する義務のことです。そのため、一般的には信託口座を開設し、信託財産にする預金をこちらへ入れます。(口座名:委託者平畑次郎信託受託者平畑三郎)
 また、信託口座の準備について、贈与と見なされないための策について、税務署から助言をもらった方が良いでしょう。そのためには、税理士さんに入ってもらった方が安心です。
 信託契約書を作成して公正証書にします。公正証書にすることは、手続き上必須ではありませんが、現実問題として必須です。
 不動産について、所有権移転及び信託登記をします。
 使う予定のない預金と株式は信託でなく遺言で手当てすることも可能です。
 受託者は毎年税務署に信託の計算書を提出する必要があります。

 平畑父はひとしきり説明を受けた後、質問をしました。
平畑父:信託財産の預金を預けておく信託口座とはどこの銀行でも開設できるのか?
岡田妻:残念ながら、信託口座を開設できる銀行は極々限られています。また、開設できるとしても、預金残高が3000万円以上必要など、条件があることを覚悟してください。
平畑父:それでは預貯金45円の我々には無理ではないか。
岡田妻:はい。ですが、銀行によって審査の条件は異なりますので、問い合わせてみる価値はあるかと思います。また、信託法には、信託口座の開設が必要であるといった規定はありません。
平畑父:それはどうゆうことか?
岡田妻:口座の名義を平畑弟(三郎)にして、分別管理を徹底するという方法があるということです。ただ、平畑弟が死亡した場合、平畑弟の遺産と見なされて口座が凍結されるリスクがあります。生前贈与と見なされて贈与税が課される可能性もあります。また、差し押さえられてしまうリスクがあります。これらについては、信託契約書を盾に異議を申し立てる必要があります。
平畑父:それで、信託口座の開設は簡単なのか?私一人でもできるのか?
岡田妻:いいえ、何度か銀行さんとの打ち合わせが必要と思ってください。平畑弟の参加も必要です。
平畑父:それは困る。病弱な息子がどう評価されるか・・・(条件5をクリアできない)。

 民事信託は息子を表に出さねばならず色々面倒くさいぞ、ということで、平畑父は民事信託に難色を示しました。続きは次回。