平畑父遺言を書く3 部分的に自筆証書遺言を作った
(お断り 本連載は事実を元に作ったフィクションです。)
平畑父が民事信託を組む案に難色を示したので、岡田妻は遺言で手当てをすることを考えました。遺産分割協議があるから遺留分や成年後見人や特別代理人や法定相続割合の話が出てくるのです。だったら、遺産分割協議をしなくてよい遺言を作れば良いのです。
しかし、そこは後期高齢者、一度に全財産の割り振りを考えることは大変です。そこで、「重要な物から」どうするか考えることにしました。
平畑父の財産は古い住まい(52円)と預貯金少し(45円)とお遊び程度の株(約3円)です。平畑父の財産の中でいちばん大きな価値があるものは住まい52円相当です。しかも、平畑父の財産の2分の1を超えています。もし、遺産分割協議にあたり平畑母に外部の成年後見人か特別代理人が付いた場合、その人は平畑母に法定相続割合での相続を主張してくるでしょう。すると、どう転んでも住まいは平畑母と誰かの共有となります。住まいの持分を有する平畑母が認知症の場合、売却には成年後見人による代理が必要になります。さらに、成年被後見人の居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要です。住まいを売却するにあたり、誰もが納得できる状況であれば成年後見人も家庭裁判所も首を縦に振るでしょう。ですが、平畑家の場合、不確定要素が多過ぎるのです。
岡田妻は、「平畑父の死後、必要に迫られたときに住まいを平畑弟の判断だけで換金できるように、不動産についての自筆証書遺言だけでも作成してみてはいかがですか?」と提案しました。
ここからが大騒ぎ
岡田妻の提案に対し、平畑父、やたらと渋々しだしました。
当然です。これまでの人生の中で、他人の遺言書なんて見たことないから身構えるのです。緊張するのです。
自筆証書遺言は様式を守らないと無効になりかねないので、岡田妻はいったん自宅に戻り、見本を作成したうえで後日再び実家に出向きました。見本にする原稿(と言ってもほんの短文)を岡田妻が作り、財産目録は登記情報を印刷したものをそのまま使うので、遺言書の作成には30分もかからないはずなのですが、なぜか半日滞在…。平畑父はその日、ぐったりした顔で娘を見送りました。これで条件3;住まいの共有は避ける。はクリアです。
次は残りの財産についてです。平畑父は預金が45円、株が3円と言っていましたが、内訳が分からないので、岡田妻はコロナが一時鎮静化しているうちに再び新幹線に乗り、財産の確認に行きました。ここで岡田妻は自分の迂闊さを反省することになりました。