平畑父遺言を書く5 ついに作った
(お断り 本連載は事実を元に作ったフィクションです。)
平畑父遺言を書く4を書いてから1年、図が間違っていたことに気付き、しれっと直しました。
この1年間、平畑父の体調が悪化したり、良くなったかと思えばコロナの波がきたりして、なかなか住民票と印鑑証明書を取りに行けませんでしたが、ついに準備が整い、公証役場を予約することになりました。
岡田妻が遺言原案を作文して、父の住民票と印鑑証明書、家族の戸籍、課税明細書、登記情報、預金通帳のコピーなどが揃いましたので、まずは公証人の先生との打ち合わせを予約しました。父には2-4週間後の空いている日にちを聞いておきました。
公証人の先生に持参した書類を預けますと先生は原稿に目を通し内容を確認されました。次に、公正証書遺言を作成する日時を予約しました。先生は「3週間は欲しい」と仰っていました。今回は私は推定相続人ですので立会証人を務めることができません。公証人の先生に立会証人2人の手配をお願いしました。
10分後、公証役場を後にして、そのまま実家へ向かい、平畑父と本番の練習をしました。平畑父の遺言内容をA4用紙1枚にまとめたものを予め作成しておきました。初めに私が一人二役で公証人とのやりとりを演じました。平畑父曰く「思ったより簡単。」次に平畑父が自分で遺言内容を説明します。えーと、えーとと言いながらもなんとかなりそうです。視力が低下したらしく、メモの細かい字が読みづらそうでしたので、本番には大きな字の用紙を用意することにしました。
数日後、公証人の先生から私に遺言の原稿と正式な計算書が送られてきました。平畑父に、「当日は公証役場に払うお金と立会証人にそれぞれ払うお金、それから実印を絶対に忘れずに持ってきてね」と伝えたところ、「お金はピン札で揃えるの?」と予想外の質問を受けました。普通のお札で構いません。
当日は岡田に倣って早めに集合して直前練習をしようと思ったのですが、本人が「大丈夫」というので、しませんでした。10分前くらいに公証役場へ行くと立会証人の先生方はもう既にお見えになっていて、どのような団体から来ているのかなどの説明を受けました。約束の時間が来て父は連れていかれ私は待機スペースで待ちます。平畑父は公証人の先生の質問に着々と答えているようです。
最後に平畑父はお代を払い、公正証書遺言の正本と謄本を1部ずつ受け取り、公証役場を後にしました。
公正証書遺言の作成はこんな風に進むのでした。
最後に、遺言は庶民のためのもの
遺言はお金のある人たちのツールであって庶民には関係ないと思われている方も多いようですが、それは違うと思います。遺言は特に、子供のいない庶民の夫婦にとって重要であると考えます。
子供がいないと伴侶が亡くなった時に、相続人は配偶者と被相続人の親になります。大概、被相続人の親は亡くなっていますので、その場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が亡くなっているとその子(甥姪)が相続人となります。兄弟姉妹系列が遺産の分配を望んだ場合、被相続人の遺産に預金がたくさんあれば良いのですが、不動産の割合が高い場合、兄弟姉妹(とその子)と分けるために預金をたくさん削らなければなりません。場合によっては、住まいである不動産を売却してそのお金を捻出しなければなりません。そんなとき、「私の財産の全てを配偶者である〇〇に相続させる」の主旨の遺言があれば、2人で築いてきた財産は全て残された配偶者のものになります。
また、平畑家のように、将来相続人の誰かが認知症になりそうな場合にも有効です。認知症が進んで事理弁識能力が著しく低下した人は遺産分割協議に直接臨むことはできず、成年後見人(保佐人)や特別代理人が代わりに権利を行使します。この場合、認知症の方の面倒を見る予定の人に財産を集約させるために認知症の方の法定相続割合に基づく遺産の取り分を削ることは困難です。また、外部の人が成年後見人(保佐人)に就任した場合、長期に渡り有償となります。平畑父の場合、平畑母がその状況を作ることを望みませんでした。そんなとき、遺言があれば、遺産の分配を広範に自由設計できますし、遺言執行者を指定しておけば認知症の方の関与なく登記手続きや預金の解約をすることができます。
「平畑父遺言を書く」シリーズはこれにて終了です。長いおつきあい有難うございました。