法定相続情報一覧図の作り方
戸籍謄本などの広域交付制度が始まります
2024年3月1日から改正戸籍法が施行され、本籍地以外の市区町村でも戸籍、除籍、改製原戸籍謄本を取得できることになります。
今までは被相続人の戸籍を読んで一式揃えることが大変だったために、法定相続情報一覧図の作成を士業に依頼した方もたくさんいましたが、3月1日からお近くの市区役所・町村役場でゾロッとまとめて入手できますので、ハードルが下がり、自分で作ってみようと思われる方もいるかもしれません。そんな方の参考になればと思い、久しぶりに書いてみようと思います。なお、このブログは解りやすさを優先して書いているため、正確性を担保しておりません。まだ施行前で実態が不明であること、このブログが当てはまらないことなどがあることをご了承ください。
相続が開始したら揃えなければならないもの
相続が開始したら揃えなければならないものは、
1. 被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍謄本一式
2. 被相続人の最後の住所を示す戸籍の附票か、住民票の除票の写し
3. 相続人の戸籍抄本(被相続人死亡時以降のもの、謄本でも可)
4. 相続人の現在の住所を示すものとして、戸籍の附票か住民票(一部)の写しか印鑑証明(いずれも被相続人死亡時以降のもの)
です。
※戸籍謄本とは、一家全員の記載がある戸籍のことです。抄本とは、謄本の中から目的の人の情報のみ抜き出して記載した戸籍のことです。上記3の戸籍抄本は謄本でも法定相続情報一覧図を作成できますが、プライバシー保護の観点から、抄本で済むことは抄本で済ますことをお勧めしています。
※戸籍の附票にも謄本と抄本があります。こちらは、被相続人のものも、相続人のものも、抄本で事足ります。
※戸籍全部事項証明書とは、昔の戸籍謄本にあたるものです。同様に、戸籍個人事項証明書とは、昔の戸籍抄本にあたるものです。このように名称が変わったわけですが、請求書などでは今でも戸籍謄本、戸籍抄本という言葉が使われています。
※除籍とは、生きている人がいなくなった(つまり空になった)戸籍のことです。全員が死亡した場合や転籍した場合があります。改製原戸籍とは、明治以来何度か戸籍のフォーマットが改製されてきたのですが、その、新バージョンの戸籍の元となった、改製前の使われなくなった戸籍のことです。
※筆頭者とは、各戸籍の名前のようなものです。筆頭者が死亡しても筆頭者名は変わりません。
※印鑑証明は、遺産分割協議を前提とした不動産の相続登記申請においても、不動産をもらわない人のものが必要となります。
法定相続情報一覧図の作成で必要な情報は、
1. 被相続人はどこの誰か?(上記1と2から読み取る)
2. 相続人は誰か?(上記1から読み取る)
3. その相続人はどこの誰で本当に被相続人の相続人か?(上記3と4から読み取る)
です。
法定相続情報一覧図には住所の記載が不要ですが、実務上、住所を記載しておくことを強くお勧めします。住所の記載のない法定相続情報を使って相続手続きをすると、行く先々の窓口で住民票の写しなどの提示が必要となるからです。
戸籍等の広域交付制度と入手方法
広域交付制度で入手できる戸籍は、本人、配偶者、直系尊属、直系卑属の戸籍、除籍、改製原戸籍謄本のみです。戸籍の附票や住民票(の除票)の写しは対象外です。また、広域交付制度では郵送請求は受け付けていません。窓口では、顔写真付きの身分証明書の提示が求められます。事前予約が必要な自治体、発行まで日数を要する自治体もありますので、ホームページで確認してください。
以降の段落の内容は文章で書くと解りにくいので、あらかじめ要点を申し上げます。
・戸籍抄本は本籍のある自治体で、戸籍謄本は全国の市区役所・町村役場の窓口で交付されます。
・戸籍の附票は本籍のある自治体で交付されます。
・住民票(の除票)の写しは、住所のある自治体で交付されます。ただし、本人、本人と同一世帯の人による請求が原則です。除票の写しは第三者請求となり、亡くなった方との関係を示す戸籍類が必要となります。
・本籍が判れば、戸籍の附票を請求することで住所が判ります。
・戸籍には、1つ前の戸籍、1つ後の戸籍が必ずどこかに書いてあります。
ここでは、筆頭者がお父様の戸籍に入っていたお母様が亡くなったと仮定して、戸籍の取得の流れを見てみましょう。まず、最初の手掛かりとなる戸籍を用意します。
A. 亡くなったお母様の本籍が分かる場合
お近くの市区役所・町村役場へ行き、戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本の請求用紙に本籍を記載し、「〇〇(お母様の名前)の出生から死亡まで 各1通」をチェックします。(チェック欄が無ければ、そのように書き加えます。)筆頭者名はお父様の名、必要な人はお母様の名を書いて、それを窓口に出せば、職員の方が戸籍を読んで、出生から死亡までの戸籍一式を出力してくれます。
同時に、お母様の本籍のある自治体に2.お母様の最後の住所を示す戸籍の附票を請求しましょう。お母様がお住まいだった自治体に住民票の除票の写しを請求しても良いのですが、その場合、あなた様が相続人であることを示す疎明資料として、お母様の名前とあなた様の名前の入った戸籍等謄本と、その戸籍からあなた様の現在までの戸籍の変遷を提示、コピーを提出する必要があります(必ず「原本還付お願いします」と書いた付箋を貼りましょう)。大変なので、住民票の除票ではなくお母様の戸籍の附票を取り寄せて済ませましょう。
別途3.自分の戸籍抄本(または謄本)、4.自分の戸籍の附票(一部)か自分の住民票(一部)の写しか印鑑証明も請求しておきましょう。戸籍謄本と住民票の写しの組み合わせならばお住まいの自治体の窓口が、戸籍抄本(または謄本)と戸籍の附票の組み合わせならば本籍のある自治体が請求先です。
近頃はペーパーレスにしている自治体もあります。その場合は、何が欲しいのか、窓口で口頭で説明してください。
B. 亡くなったお母様の本籍が不明で、自分の従前戸籍がお母様と同じ場合
まず、あなた様の本籍のある自治体にお住まいであれば3.自分の戸籍抄本をその市役所・町村役場で請求しましょう。本籍のない自治体にお住まいであれば、本籍のある自治体に戸籍抄本を郵送請求するか、お近くの市区役所・町村役場で戸籍謄本を入手してください。並行して、自分の本籍のある自治体に4.自分の戸籍の附票(一部)を請求するか、お住まいの自治体に4.自分の住民票(一部)の写しか印鑑証明も請求しておきましょう。入手した戸籍抄本(謄本)には「従前戸籍」が書かれています。今ご説明している事例では、筆頭者お父様の、お母様が入っていた戸籍が従前戸籍になります。その本籍と筆頭者名はお父様の名、「必要な人」お母様の名で、お近くの市区役所・町村役場で戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本の請求用紙を記入し、「〇〇(お母様の名前)の出生から死亡まで 各1通」をチェックして請求します。
その後、お母様の本籍のある自治体に2.お母様の戸籍の附票を請求しましょう。
C. 亡くなったお母様の本籍も住所も不明で、自分の従前戸籍がお母様と違う場合
この場合は、3.自分の現在の戸籍抄本(または謄本)と自分の出生時の戸籍謄本を取り寄せましょう。出生時はお母様と一緒の戸籍に入っていたはずです。その戸籍を元に、その本籍と筆頭者はお父様の名、「必要な人」お母様の名を書いて、お近くの市区役所・町村役場で戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本の請求用紙を記入し、「〇〇(お母様の名前)の出生から死亡まで 各1通」をチェックして請求します。(説明できるならば、「ただし、〇〇(既に入手した戸籍)を除く」と加えてください。さもないと、あなた様出生時の戸籍が重複して交付されることになります。)すると、仮にその本籍とお母様の死亡時の戸籍が違っていたとしても、窓口の職員さんが現在方向と過去方向に戸籍を辿って、出生から死亡までの戸籍一式を出力してくれると思います(本原稿執筆時未施行なので分かりません)。
その後、お母様の本籍のある自治体に2.お母様の戸籍の附票を請求しましょう。
並行して、自分の本籍のある自治体に4.自分の戸籍の附票(一部)を請求するか、お住まいの自治体で4.自分の住民票(一部)の写しか印鑑証明も取り寄せましょう。
お母様の戸籍が揃ったら、次は他の相続人の戸籍抄本と戸籍の附票(一部)もしくは住民票(一部)の写しを入手する必要があります。ここでは他の相続人は弟様のみと仮定します。2つの入手方法があります。
A. 弟様に自分で入手してもらう
弟様に自分で入手してもらい、申出人であるあなた様に送ってもらうと手っ取り早いです。
B. 弟様から委任状をもらってあなた様が請求する
弟様は傍系親族にあたるので広域請求の対象ではありません。そのため、弟様に委任状を書いてもらい、弟様の本籍のある市区町村に戸籍抄本と戸籍の附票(又は弟様の住む市区町村に住民票の写し)を請求します。委任状のフォーマットは各市区町村のホームページに載っています。弟様の本籍が分からない場合はお母様の戸籍から辿ることができます。郵送請求も可能です。詳細は、「戸籍、郵送、自治体名(例;京都市)」で検索してください。
C. あなた様が請求する
弟様は傍系親族にあたるので広域請求の対象ではありませんが、弟様が法定相続人であり相続手続きに必要な書類であることを明記し、お母様の死亡の事実、お母様と弟様とあなた様の関係を示す戸籍類、あなた様の戸籍抄本とそれらのコピーを添付すると、弟様の本籍のある市区町村に戸籍抄本と戸籍の附票(又は弟様の住む市区町村に住民票の写し)を請求できます。その際、戸籍類には必ず「原本還付お願いします」と書いた付箋を貼りましょう。弟様の本籍が分からない場合はお母様の戸籍から辿ることもできます。郵送請求も可能です。詳細は、「戸籍、郵送、自治体名(例;京都市)」で検索してください。
法定相続情報一覧図の作り方
戸籍等が一式揃ったら、法定相続情報一覧図の作成をすることができます。法定相続情報一覧図があると、相続登記、金融機関での解約などにいちいち戸籍一式を持っていく必要がなくなるので便利です。ただ、使用目的が単に相続登記だけの場合は、わざわざ法務局で認証を受けて法定相続情報一覧図の交付を受けるのも面倒ですので、相続関係説明図と戸籍類と住所証明書類一式の添付でも大丈夫です。
法定相続情報一覧図の作成方法は、法務局のホームページにExcelフォーマットやいくつかの記載例が公開されています。なので、書き方についてはそちらに譲るとして、注意して頂きたいことがございます。
慣用では住所などの最後を「1-2」といったようにハイフンで書くことが多いですが、法定相続情報一覧図では略して記載してはいけません。「1-2」では、「1番地2」なのか、「1番地の2」なのか、「一丁目2番地」なのか判りません。戸籍と附票と住民票の写しに書いてある記載が正しい記載です。ハイフンで略さずに正確に書きましょう。「一丁目」「二丁目」…は漢数字が正式な書き方ですが、住民票の写しには算用数字で書かれていることも多いです。
「長女」、「長男」、「二男」…を記載しますが、相続人に異母兄弟姉妹または異父兄弟姉妹がいる場合の順番は、同じ父母組の兄弟姉妹ごとに振ります。なので、1通の法定相続情報一覧図に「長女」や「長男」となる人物が2人いることもあり得ます。養子は「養子」「養女」と書きます。次男、次女ではなく「二男」、「二女」と書きます。
「子」という記載でも受け付けてもらえますが、「子」とした場合、相続税の申告等に利用できなくなりますので、「長女」、「長男」、「二男」…で書くことを強くお勧めします。
パソコンで出てこない漢字はどうしたらよいか
本籍、住所、氏名の漢字で、パソコンで出てこない漢字が使われている方もいるかと思います。例えば、サイトウさんの「サイ」の字は色々ありますし、「辻」のしんにょうはパソコンでは点が2つで書かれますが、点が1つの漢字を使用する地名もあります。パソコンで出てくる漢字で代用できる場合とできない場合がありますが、判断が難しいので、取り寄せた書類の字に手書きで合わせることをお勧めします。(登記官は代用の可否を判断できても、金融機関の窓口の方が正しく判断できるとは限りませんので。)
法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書の書き方
法定相続情報一覧図と併せて「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」も書きましょう。
法定相続情報一覧図は無料です。欲しい枚数を「必要な通数」欄に書きましょう。登記用、各金融機関用、相続税の申告、年金手続などに使いますので、まとめて発行してもらいましょう。足りなくなったら、追加で交付してもらうことが可能です。
申出先の法務局は、被相続人の本籍地、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局から選ぶことができます。管轄する法務局は「法務局、不動産登記管轄、市区町村名(例;京都市右京区)」で検索して調べましょう。
「被相続人名義の不動産の有無」と「不動産番号」欄は、不動産の所在地を管轄する法務局に申出する場合は必ず書きましょう。不動産番号は登記識別情報通知や登記情報に書いてあります。
法定相続情報一覧図と申出書を用意出来たら、法務局の窓口または郵送で請求します。法定相続情報一覧図、申出書、戸籍類や住民票の写し類の原本一式、申出人の本人確認書類(運転免許証など)、郵送の場合は返信用封筒も用意してLet’s Go!です。郵送の場合は本人確認書類のコピーに「原本と相違ありません」と書き記名しましょう。
法務局では登記官の方が戸籍などを全部読んで法定相続情報一覧図が正しく書けているかチェックしてくれますので、安心してください。
いかがでしょうか。自力でできそうな気がしませんか。
家族関係が複雑で戸籍の取得と法定相続情報一覧図の作成が困難な場合は、お近くの司法書士・行政書士・弁護士に相談してみてください。司法書士・行政書士・弁護士は、単に戸籍を取得する目的ではお客様の戸籍を取得することはできませんが、法定相続情報一覧図や遺産分割協議書の作成を受注した上での戸籍の取得は、職権で行うことができます。
お客様が自力で法定相続情報一覧図を作成できれば、お客様にとってはコストの削減になりますし、士業にとっては手間の削減になります。(士業は広域交付制度を利用できないため、戸籍の取り寄せはそれなりに時間を喰う作業になります。)Win & Winの関係ですので、是非、自作して法務局の認証を受けた法定相続情報一覧図を持ってお気軽に相続手続きの相談にお越しくださいませ。